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 頭足類とは軟体動物門に属する生物のグループの一つで、身近なところではイカやタコ等がその代表
だろう。しかし、彼らは同じ軟体動物の二枚貝や巻き貝とはかなり異なった姿をしている。その名の通り、
頭部に足のついたような姿をしており、腹部は頭の上に付いている。また、貝などとは逆に殆どの種で体
を覆う殻はなくなり、せいぜいが退化した殻の痕跡を体内に残しているに過ぎない。

 オウムガイは頭足類の中でも起源が古く、カンブリア紀後期には何百という新種が現れている。

 ところで、オウムガイから、同じ有室の殻を持つ頭足類であるアンモナイトを連想する方は多いのではな
いだろうか?

 示準化石として有名なアンモナイトは、デボン紀の新たな捕食者の出現 〜 殻を食い破る顎のある魚類
の進化 〜 により、オウムガイから枝分かれして現れ、爆発的に適応放散していった。逆にオウムガイは衰
退していったが、これには成長速度のきわめて遅いオウムガイが、成長の早いアンモナイトより不利だった
からだと考えられている。

 現生のオウムガイは年に10個ほどの卵を生むが、卵の直径は3センチもあり、このサイズの生物としては
非常に大きい。生まれてくる幼生も大きく、卵が孵化するには一年もの時間がかかる。また、浮力を生み出
す殻の空室は、新しい部屋が作られた時は液体で満たされており、浸透圧によって排水されガスが満たさ
れるのだが、それにはかなりの時間がかかる。そのため成長は極めて遅く、標準的なサイズ(直径25cm)
に成長するまで、約20年かかると推算されている。

 これに対してアンモナイトは殻の内壁の構造に変更を加えて、同じ強度でより軽い殻を獲得した。これに
よって殻に必要な生体鉱物の量が減少し、より早い成長を可能としたのである。捕食者に襲われやすい弱
い殻を持った幼生の段階は短ければ短い程良い。

 また、繁殖の方式もオウムガイの大きくて丈夫な子供を少数育てる方法から、小さな子供を大量に産む方
法に変更され(殻の成長過程の年輪から、アンモナイトの幼生は1mm程度と推測されている)、前述の早い
成長速度と合わせ、より素早い環境への適応と、爆発的な放散を可能とした。

 しかし、この繁殖方法の違いが、何度もの大絶滅を乗り切った2つの頭足類のうち、アンモナイトの方を絶
滅に導き、オウムガイが生き残った原因だとする説がある。


参考文献 :

● ピーター・D・ウォード著 「メトセラの軌跡 〜 生きた化石と大量絶滅 〜」

 シーラカンスやオウムガイ、カブトガニやセコイアの木など、いわゆる「生きた化石」
を紹介し、彼らの生態や、進化と絶滅の物語に加え、著者自身の野外調査の体験
も交えた本。私の駄文を読むより遙かに面白いこと請け合い。(当たり前)

是非ともご一読をお勧めする。









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